[ トピックス ]
(2017/8/23 05:00)
破壊的なプレーヤーの登場
古代中国の四大発明が羅針盤、火薬、紙と印刷であることはよく知られている。最近中国のメディアでは、「高速鉄道」(中国版新幹線)、「ネット通販」、「支付宝」(アリペイ)、「シェア自転車」が「新四大発明」として頻繁に登場するようになった。これらのサービスは、中国が発明したものというよりは、中国で応用と普及が進み、巨大な規模に発展した点が強調されている。それでも、アリペイをはじめとする第三者決済サービスは重要な発明の一つとして挙げられている。
アリペイは、2004年に電子商取引における第三者保証機能を持つ決済方法としてリリースされた。現在ではインターネット決済からモバイル決済、オフライン決済まで幅広く利用されている。アリペイを運営している「螞蟻金服」(Ant Financial)は、16年には中国最大のユニコーン企業(未上場で評価額が10億ドル以上のベンチャー企業)となり、企業価値は750億ドルに達した。
05年にインターネット大手のテンセントがアリペイと同様の機能を持つ「財付通」を始め、アリペイを追いかけようとしていた。近年同社が開発した、8億人以上のユーザーを有する人気メッセージアプリの「微信」(Wechat、ウィーチャット)での支払い(「微信支付」、ウィーチャットペイ)が急増している。
17年第1四半期のデータによれば、第三者決済サービスを使ったモバイル決済では、アリペイと「財付通」(主にウィーチャットペイ)がそれぞれ54%と40%のマーケットシェアを握っている。両者が圧倒的な優位を占めながら、激しいシェア争いを繰り返している。
一方、アリペイもウィーチャットペイも海外の決済機構や実店舗などと提携して、海外展開を積極的に進めている。現時点では、増加を続ける中国人観光客を中心にモバイル決済などのサービスを提供しているだけだが、将来的には現地のマッケートを制覇する本格的な現地展開も視野に入れているという。
さらに、フィンテックで信用評価を進化させる動きもある。中国では、アリペイの付随機能として生み出された「芝麻(ゴマ)信用」の利用が広がっている。「芝麻信用」は個人情報や、支払い履歴、人脈、普段の消費行為、消費嗜好などを信用のポイントにしている。「芝麻信用」のポイントが高くなればなるほど、信頼できる人間として認められ、さまざまな優遇サービスを受けられる。
例えば、信用ポイントの高い顧客の場合、敷金なしで部屋を借りられるし、自転車シェアリングサービスの「ofo」の登録用デポジットも免除される。「芝麻信用」は15年から6月6日を「信用の日」とし、信用に対する一般人の認識を高めようとしている。
中国では個人の信用評価は、従来ならば、銀行のような伝統的金融機関でしかできなかったが、15年1月から民間企業も参入できるように法規が緩和された。フィンテック企業の奮闘で、中国が信用社会の構築へ踏み出すことができれば、中国社会にとっては重要な発明になるかもしれない。
(隔週水曜日に掲載)
【著者プロフィール】
富士通総研 経済研究所 上級研究員
趙瑋琳(チョウ・イーリン)
79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。
(2017/8/23 05:00)