[ トピックス ]

【電子版】中国イノベーション事情(18)DJI一人勝ち

(2017/9/20 05:00)

中国をドローン大国に変えられるか

  • 深セン・歓楽海岸に位置するDJIの旗艦店

  • DJIの旗艦店で製品を見る来場者

  • 空撮を実演する店員(いずれも筆者撮影)

深センに本社を置く世界最大のドローンメーカーDJI(Da-Jiang Innovations Science and Technology、大疆創新)は、言うまでもなく中国におけるハードウェアベンチャーの代表的な存在である。世界の民間用ドローン市場で70%超のシェアを握るDJIの2016年の売上高は、100億元(約1660億円、1元約16.6円で換算)を突破した。そのうち消費者向けのドローン製品の収入は約8割を占め、また海外販売による収入も約8割である。

創業者の汪滔(フランク・ワン)氏は05年に香港科技大学を卒業し、同大学から起業資金を獲得して、06年に深センでDJIを創業した。13年からカメラを搭載するPhantom(中国語では精霊、スマートの意味合いが強い)シリーズで一気に市場を制覇できた。現在は6000人超の社員を擁し、その4分の1が研究開発(R&D)に関わっているという。

DJIは潤沢な資金と堅実なR&D力で、製品の小型化や新機能の追加などにチャレンジし、進化を遂げている。その一方で、中国ではドローンブームが続き、ドローンベンチャーが雨後の筍のように生まれている。消費者向けのドローン市場で一人勝ちになっているDJIは、このまま競争力を維持できるか、産業用ドローン市場を開拓することができるか、これからが正念場である。

中国国内の調査会社の艾瑞咨詢(iResearch)が16年に公開した「中国無人機(ドローン)産業研究報告」によれば、中国のドローン市場は2025年まで高い成長率を維持し、市場規模は750億元(約1兆2450億円)に達する見通しである。空撮用以外に、農業や林業、セキュリティー関係、電力点検、物流など、産業用ドローン市場のポテンシャルが大きく、その規模は450億元になると予想されている。とりわけ、18億ムー(約1.2億ヘクタール)の耕地を持つ中国では、ドローンの活用による農作業の生産性向上への期待が高まっている。

広州に本社を構える「極飛科技」(XAircraft)(日本にも進出)は、農業用ドローン分野の有力ベンチャーである。ほかにも、同じく深センのドローンベンチャーのMMC(深セン科比特)は、産業用ドローン市場のあらゆる分野に進出している。DJIを含め、ドローンメーカーは皆競って、産業用ドローンの普及に向け攻勢をかけている。

ドローン産業を新興産業と見なしている中国は、ドローン産業の育成に力を注いでいる。ベンチャー活動が盛んな北京、深セン以外に、ドローンの実験に適する広大な面積を有し、航空機に関する研究や製造の基盤がある内陸都市は、ドローンの産業化基地の建設やドローン企業の誘致に走り出している。

陜西省の「航空科学城-ドローン産業化基地」は、14年に設置された国家レベルの新区「西咸新区」に置かれている。陜西省西安市にある名門大学の西北工業大学の研究資源を活用し、中国最大のドローン産業化基地をつくると宣言している。また航空系の大学(北京航空航天大学、南京航空航天大学など)は人材育成に積極的に取り組み始めている。

ドローン市場の拡大に向けて、ドローンベンチャーのパイオニア精神と中国政府の思惑がうまくかみ合っている。だが、ドローンの違法飛行などの問題で、規制が強化される動きもある。DJIの成長に鼓舞され、ドローン大国になりつつある中国は、今後難しい舵取りを迫られそうである。

(隔週水曜日に掲載)

【著者プロフィール】

富士通総研 経済研究所 上級研究員 

趙瑋琳(チョウ・イーリン)

79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。

(2017/9/20 05:00)

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