産業春秋／記者会見のストレス

ある大企業のトップが退任する時にねぎらいの言葉をかけたら、ご本人から「やれやれこれで会見をやらなくていいようになるよ」と晴れやかな顔で言われた。

事前に想定問答を作成し準備を整えていても、記者の質問に間違ったことや不適切なことを言ったらどうしようと内心ヒヤヒヤしながら会見に臨んでいたという。確かに過去には会見での失言が原因で企業の存続が危うくなったり、トップが辞任に追い込まれたこともあった。

プロテニスプレーヤーの大坂なおみ選手が、全仏オープンを途中棄権した。その理由として「長年うつ症状に苦しみ、会見が大きなストレスになっていた」と明かした。告白には大きな勇気がいったはずだ。多くの人が彼女の心の痛みに同情を寄せている。

トップ選手というだけでなく、黒人やアジア人への偏見に対する抗議など、彼女の言動は常に大きな影響を与えてきた。記者も試合内容だけでなく、さまざまなことを聞きたい思惑があったのだろう。

記者会見が想定問答に沿った予定調和で終わっては会見の意味は薄れる。しかし、メディア側も当事者は大きなプレッシャーに直面しつつ会見に臨んでいることは忘れないようにしたい。