京都工芸繊維大学など、半導体型CNT 低コストで抽出 環境発電普及も

(2024/9/27 12:00)

透明でフレキシブルなトランジスタやコンピューターなどへの応用が見込まれる半導体型のカーボンナノチューブ(CNT)。京都工芸繊維大学と奈良先端科学技術大学院大学、産業技術総合研究所の共同チームは、半導体型CNTを低コストかつ選択的に取り出す技術を開発した。半導体型CNTは優れた熱電変換特性も持つことから、廃熱から電力を生み出す環境発電(エネルギーハーべスティング)の普及も進みそうだ。

  • 「HC(ヘキシルセルロース)で抽出した半導体型CNT膜は、従来の導電性高分子抽出法(PFO―BPy)による半導体型CNT膜の約3倍の電力因子を示した」(京都工芸繊維大提供)

単層CNTは直径約1ナノメートル(ナノは10億分の1)、長さ数マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の炭素原子の円筒構造体。炭素原子の並び方によって「半導体型」や「金属型」に分類され、それぞれ異なる物性を示す。

この単層CNTは半導体型と金属型の混合物として作られる。そのため高性能なトランジスタ材料や、発電材料向けの高機能性インクとして使うには、半導体型CNTだけを高純度、かつ効率的に分離する必要がある。

京都工芸繊維大の野々口斐之准教授、奈良先端大の河合壯教授、産総研の桜井俊介研究チーム長らは、天然の高分子セルロースを原料とする樹脂(アルキル化セルロース)を抽出剤として使い、高品質な半導体型CNTを選択的に分離、抽出できることを実証した。「開発方法では、半導体型CNTを98%程度の高い純度で簡便に抽出でき、高純度化のめども立っている」(野々口准教授)という。

アルキル基の種類や置換度、分子量などの分子構造が分離効率に与える影響を系統的に調べ、中程度に置換されたヘキシルセルロースが特に半導体型CNTの抽出に適していることを突き止めた。

  • 選択的抽出剤として試したさまざまなアルキル化セルロース(エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基をそれぞれ置換したセルロース、京都工芸繊維大提供)

半導体型CNTの分離はこれまでも粒子のサイズや形状、密度に基づいて分離する密度勾配超遠心分離法や、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー法、導電性高分子抽出法といった複数の技術が提案されている。だが「産業に応用するには、より安価かつ大量に分離する必要があった」と野々口准教授は話す。

開発技術の優位性は、純度の高い抽出に加え、半導体型CNTの分離精製コストを大幅に減らせる点だ。実験では1時間以内で分離試料を調製でき、密度勾配超遠心分離法などの従来法に比べ、工程が短時間かつ低コストな手法という。

さらに成膜したCNTの熱電特性を調べたところ、ヘキシルセルロースで抽出した半導体型CNT膜は、分離精製していないCNTに比べ4倍程度の熱起電力を示した。また、従来の導電性高分子抽出法による半導体型CNT膜に比べ、電力因子は約3倍だった。これらは熱電発電時の発電量に効いてくる。

加えて、「この抽出剤は入手が容易で、安価な原料から調製されている」(同)ことも特徴だ。特に、操作が似ている導電性高分子を使った分離抽出法に対しても、抽出剤をアルキル化セルロースに替えることでコスト削減が見込める。高品質な半導体型CNTの安定供給につながると期待している。

(2024/9/27 12:00)

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