[ オピニオン ]
(2016/11/15 05:00)
知人の50代のネパール人女性が起業した。都内でインド料理店のウエートレスとして働き、来日11年目に独立した。真新しい店を訪ねると、オーナーとしての強い意志を示すかのように、これまでの印象とは違う真っ赤な口紅をつけた彼女が立って待っていた。
彼女の人生は平たんではなかった。10代で結婚して2人の子供を授かるも、20代で夫は他界。女手ひとつで子供を育てた。言葉も不十分なまま、両親と子供を残して40代で日本に出稼ぎに渡った。
2011年3月の東日本大震災は東京で迎えた。何が起きたのか分からず、パニックになった。ニュースの日本語は複雑すぎて、英BBC放送で状況を把握した。15年4月、今度は母国で大地震が発生。現地に連絡がつかず、不安が募った。幸い翌日には電話があり、家族の無事を確認できた。
起業後も難題は待ち受ける。日本語は話せても書けないので、メニューの説明書きは誰かに頼るしかない。日本の食品衛生法も理解しなければならない。我々から見ると、いささか無謀な起業に思えなくもない。しかし彼女はひたすら、前だけを見つめて歩み続ける。
新しい店の名は、ネパールの女神である『クマリ』。きっと彼女には女神がついている。
(2016/11/15 05:00)