現代の名工(3)製本作業員・渡辺博之氏 左官・荒木新勝氏

(2023/12/14 12:00)

製本作業員

特殊本 糊入れ装置開発

博勝堂・渡辺博之氏

経本や御朱印帳、アートブックなど特殊な製本を得意とする博勝堂(東京都新宿区)。相談役の渡辺博之さんは「平面の印刷物を立体へ形作る過程が楽しい」と魅力を語る。大学卒業後、大手印刷会社での勤務を経て、父が創業した博勝堂に入社した。当時は学校の卒業アルバムの製本が多かったという。

製本作業の肝は、はけ使い。はけの持ち方や動作だけでなく、糊の選定や配合、紙のめくり方を所作がきれいな人の動きをまねして体得した。紙の厚みが指の感覚で分かるようになるほど見本帳をさわり続けた。近隣の製本所は機械化によるライン生産を徐々に進め、東京都板橋区や埼玉県川口市などに工場を移転したが同社は手作業の技術を磨き続ける。

1998年に社長を継ぐと、レストランのメニュー表や御朱印帳など特殊な製本依頼が増えていく。御朱印帳の生産は製本所の職人の高齢化や後継者不足と手作業で単価が低く、廃業する製本所が相次いだためだ。そこではけ使いのノウハウを活用。和装本の手法“かっくら返し”で和紙の本文紙を糊付けする装置と、仕上げた本文を表紙の中心に貼る装置を機械メーカーと共同開発した。手作業では1時間で40冊程度だった糊入れ作業が150冊できるようになった。

現在は相談役として社員を育成しながら、東京製本高等技術専門校(東京都板橋区)の校長も務める。「行列のできる製本屋にしたい」と話す渡辺さんの元には全国から依頼が入る。

左官

伝統工法携わる人材育成

緒方建設工業・荒木新勝氏 

「左官は死ぬまで修行。仕上がりに100%納得することはない」。緒方建設工業(熊本県菊池市)の荒木新勝社長は左官専門工事業者だ。しっくい塗工法や人造研ぎ出し、洗い出し仕上げ工法などの幅広い技能と伝統的工法における左官技能に優れ、業界内で高い評価を得る。

幼いころから両親や祖母に「手に職を持て」と聞かされて育った。荒木社長は左官に興味を持ち、「中学を卒業してすぐに左官業界に飛び込んだ」と振り返る。以来49年、常に技能研さんに努めた。

1978年、22歳で独立し、左官業の個人事業主として創業した。当時は技術系専門学校などない時代。技術習得は、先輩たちの仕事を見て学んだ。

左官は左手に持つ受け板に材料を載せて右手のコテですくい上げながら壁に持っていく。簡単ではないが、器用な人はすぐに習得する。同じ1級技能士資格を取得していても現場で差が出る。「仕上げ時間や利益を生み出す能力は職人としての技量だ」と強調する。

セメントや土壁など材料の乾き具合が仕上がりを左右する。天候の影響も受ける。終日かかりっきりのこともある。「現在は乾きや接着力に優れた材料が開発されて便利になった」(荒木社長)。

80年代半ばから採用を開始し、89年に法人化した。土木工事や建設など事業を拡大し、後進の育成にも注力する。課題は人材の確保と育成。「特に文化財修復に携わることができるレベルの人材育成は急務」と力を込める。

(2023/12/14 12:00)

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