社説/転職希望1000万人 成長分野への円滑な移動さらに

(2024/3/7 05:00)

転職希望の従業員が全国で1000万人を超える。全従業員の2割弱を占める。人手不足による売り手市場の中、より高額の賃金や、自身に適した職業を求める人が増えている。だが実際に転職できたのは希望者の3割強に過ぎない。学び直し(リスキリング)などで従業員の能力を向上させ、労働移動を円滑にする必要がある。従業員の賃金水準を引き上げることで経済の好循環を早期に実現したい。

総務省の労働力調査によると2023年の「転職等希望者」は前年比39万人増の1007万人。7年連続の増加で、1000万人を超えたのは初めてだ。ただ同年の転職者数は328万人にとどまる。前年より25万人増えたものの、転職希望者の33%に過ぎない。この数字を引き上げる施策を推進したい。

岸田文雄首相は22年10月の所信表明演説で、リスキリング支援として「人への投資」に5年で1兆円を投じるとし、政府・自治体が各種助成金を給付している。専門の事業者によるキャリア相談・職業紹介を無料で受けられたり、企業が職業訓練を実施した際の訓練経費も一部を助成。個人が資格取得のための講座を終了した場合も国が費用の一部を支援する。こうした支援策を積極利用することで円滑な労働移動につなげたい。

厚生労働省によると、23年の有効求人倍率は1・31倍で、売り手市場にある。人材確保に向けた賃上げの動きも広がる。リスキリングにより不足するデジタル人材などを育成し、非正規労働者の正規化も促すことで分厚い中間層を形成したい。若者の経済力が高まれば結婚・出産の動機付けとなり得る。少子化対策としても期待できる。

企業はリスキリングを通じて従業員の能力向上と処遇改善を実現すれば、社内の生産性向上やイノベーションの推進、さらに人材を引き留める効果が期待できる。半面、スキルを身に付けた従業員がより高い賃金を求めて他社に転職するリスクもはらむ。だからこそ企業は、持続的な賃上げが可能な成長投資を推進し、従業員に選ばれる企業へと変革する必要がある。

(2024/3/7 05:00)

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