(2024/11/22 12:15)
レーザー光照射 暗くとも見逃さず
クマやシカなどによる獣害は農作物だけでなく人の死亡例もあり、社会問題となっている。わなや柵などの対策も進むが、動物への効果は限定的だ。和歌山大学の中嶋秀朗教授は動物が来る場所に複数のロボットを配置し、動物を検出後、レーザー光を照射し追い払う獣害対策システムの開発を模索する。構想実現のための要素技術を開発中だ。ロボットを駆使する人と動物との知恵比べが始まった。
農林水産省によると、2022年度の国内の野生鳥獣による農作物の被害額は156億円に上る。現場では網や電気柵の設置、見回りなどを実施しているが、成果は上がっていない。
そこでロボットを活用した獣害対策が注目されている。飛行ロボット(ドローン)の活用が検討されているが、稼働時間の短さや自律システムの構築の難しさなどの課題がある。また音や光で動物を追い払う固定型ロボットも開発されているが、動物が刺激に慣れ思うような効果は得られていない。和歌山大の中嶋教授は「本気で追いかけられないと動物は反応しないのでは」と指摘する。
こうした課題克服のため、中嶋教授は複数のロボットを活用した獣害対策システムの構築を目指す。ロボットは農地などの守備範囲内で動物を見つけ、追いかけ、追い払う。中嶋教授は「動物に合わせロボットが動くことで動物が慣れにくくなる。複数のロボットを協調させ相手に合わせて対応するロボットを開発したい」とする。
最初のアプローチは農地に侵入する動物を見つけることだ。通常のカメラに加え、気候の影響を受けにくい「ミリ波レーダー」や、温度を検知し暗い場所でも使える「サーマルカメラ」など複数の手法を組み合わせ、動物を検出する。これらの手法を検討中だ。
動物の検出には複数のロボットを効率良く巡回させる必要がある。中嶋教授らは、アリが餌を見つけた後にフェロモンをたどる特性を活用し最短ルートを決定するアルゴリズム「アリコロニー最適化」に着目。3台のロボットの動く距離が最も短くなるルートを作った。今後、作成したルートを実機となるロボットで実証する。さらに動物の追跡ルートの計算にも着手する。
だがこうした取り組みだけでは動物との知恵比べには勝てない。「現在の画像処理技術ではイノシシとシカを見分けられても、動物が逃げようとする方向までは分からない。動物の特性を知ることが重要」(中嶋教授)。そのため動物の反応を映像に収め、その特性をシステムに組み込むことで動物に慣れさせない追い払いシステムの構築を目指す。
すでにアライグマやイノシシが出没する場所に監視カメラを仕掛け実証実験できる候補地の検討に入った。中嶋教授は「24―25年度で核となるシステムを構築し、数年で獣害対策システムを完成させたい」と目を輝かせる。地方や都市を脅かす課題の解決につながる技術開発が進む。
(2024/11/22 12:15)
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