(2024/12/27 17:00)
ニデックがマシニングセンター(MC)大手の牧野フライス製作所の買収に乗り出す。牧野フライスの同意を得ていない。TOB(株式公開買い付け)が成立すればニデックの工作機械事業の売上高は約3000億円規模となり、同5500億円規模のDMG森精機を筆頭とする工作機械業界の先頭集団に加わる。中国など新興勢台頭への危機意識は工作機械各社で醸成されており、このTOBが業界再編の試金石となるか注目される。(西沢亮)
中国メーカーにらみ、強い企業へ
「他国企業の躍進的な成長と技術の向上により、戦って勝ち抜き続けなければ我々の相対的な競争力の低下を招きかねない」。ニデックは牧野フライスに提出した「企業価値の最大化に向けた経営統合に関する意向表明書」の冒頭で工作機械業界の現状に強い危機感を示した。
特に国内の工作機械市場では80社以上の企業がひしめき、景気変動の波に大きく左右される構造があり、持続的な成長のため必要な投資を抑制せざるを得ない環境にあると分析する。一方、工作機械製造を国の重点分野と位置付け成長を続ける国や企業の台頭で競争は激化し、「携帯電話、パソコン、家電、自動車業界などで見られる世界規模での競争環境の大きな変革は工作機械業界でも同様に起こり得る」とした。
こうした見方にある大手工作機械幹部は中国の工作機械メーカーは相当レベルが上がっているとし、「米中対立で中国製の機械を米国や日本で買わないだけで、対立がなければ当社を含め多くの企業が5年で倒れている。トランプ米次期大統領が中国と競っている間に逃げ切らなければならない」と危惧する。
2023年8月に「企業買収における行動指針」を公表した経済産業省幹部はニデックの動きについて「指針に沿った交渉が行われることに期待したい」と指摘。一般論とした上で「生産効率化や販売・サービス網の集約化など統合による競争力強化は期待できる。一方、垂直統合がサプライチェーン(供給網)にもたらす影響は善しあしもあり、よく検証する必要がある」と述べた。
ニデックは牧野フライスについて株価純資産倍率(PBR)が12月26日現在で0・84倍と資本市場での評価の低さを問題視した。また24年3月期売上高の20%以上を占めた米国事業では航空機産業が、同約30%の中国事業では電気自動車(EV)がそれぞれ必ずしも継続的に安定している訳ではないと指摘。グローバルな市場変化への対応など成長に向けた取り組みは「貴社単独の努力ではどうしても時間がかかり、決して容易ではない」との認識を明らかにした。
牧野フライスは5軸加工機などのMC大手で、放電加工機やレーザー加工機も手がける。ニデックはグループで旋盤、歯車加工機、門型5面加工機、横中ぐり盤、MCをそろえる。ニデックは同意向表明書で両社の製品や加工技術を組み合わせることで、「高度な複合加工の技術・製品・ノウハウを生み出せる」とした。
また生産面では海外で牧野フライスがシンガポール、中国、インドで工作機械の生産工場を展開する。ニデックは工作機械事業で北米、欧州、台湾などに拠点を構え、「世界で生産拠点の補完性が成立し、現有拠点を活用することで迅速なビジネス展開が可能になる」と指摘。サービス・購買・技術人材の採用なども共同で実施することで、シナジーを期待できるとの考えを示した。
省人化や生産性向上へ工作機械注目 業界再編続く
牧野フライスは28年3月期まで5カ年の経営指標として売上高2700億円(24年3月期は2253億円)、営業利益率12・0%(同7・3%)、自己資本利益率(ROE)11・0%(同7・6%)を掲げ、PBR1倍以上を目指す。
資本政策で注力するのが原材料などの仕入れ代金を払ってから製品を売って、現金を回収するまでの期間を示すキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の短縮だ。CCCを28年3月期までに23年3月期と比べ1割程度圧縮して155日とする目標も設定した。
取り組みの中核を担うのが210億円を投じて富士吉田工場(山梨県富士吉田市)内に建設する工作機械の新工場。26年1月の稼働を予定し、日本国内では約12年ぶりの新工場立ち上げとなる。
背景には国内のみで生産する大型機を中心に足元で積み上がる受注残がある。コロナ禍前は600億円以下だった受注残が、23年9月末時点で1000億円を超えた。工場新設で大型機の納期を現状比半減し、年産能力を同最大2倍に向上。部品在庫や仕掛品の回転率を改善し、CCCの短縮につなげる。
新工場では小型から大型まであらゆる機種を効率的に組み立てる仕組みも取り入れ、需要変動に対応できる柔軟な生産体制で競争力を確保する。一連の生産改革がPBR改善に寄与するのは26年以降で、株主の受け止めが注目される。
牧野フライスは24年4―9月期の航空機向けの受注が前年同期比55%増加し、25年3月期の受注計画を従来比125億円増の2275億円に上方修正する一因となった。航空宇宙産業は工作機械に対する要求が最も厳しい業界の一つで、MCを中心とする同社の技術力は高く評価される。
一方、アジアでは24年4―9月期に新エネルギー車(NEV)と半導体関連の部品加工向けの受注が増加。25年3月期の受注計画を主力の中国やインドでそれぞれ上方修正した。特に中国では現地NEVメーカーによる競争力向上に向けた能力増強や、海外工場への設備投資を確実に取り込んだとみられる。同国の電気自動車(EV)販売では日系完成車メーカーの苦戦が目立つが、世界で激化するEV開発競争にも柔軟に対応する。
製造業では慢性的な人手不足で省人化や生産性向上への対応が強く求められ、加工工程の集約や自動化を実現するMCへの引き合いは今後も高まる。
ニデックは牧野フライスを日本の工作機械業界の基礎をつくった代表企業の1社とし「MCの第一人者」と高く評価する。売上高2000億円を超え、業界の歴史を築いてきた同社へのTOBが成立すればニデックがM&A(合併・買収)を実現できない工作機械メーカーは限られる。ニデックは工作機械事業の31年3月期売上高を現状比約5倍の6000億円規模とする計画で、業界再編は続くことになりそうだ。
事業急拡大 国内外で買収 製品群の拡充
ニデックが得意のM&Aを武器に工作機械事業を拡大してきた。21年以降、国内外の有力メーカーを矢継ぎ早に買収し歯車加工機やMCをはじめとする製品群の拡充とともに顧客基盤も拡大。世界屈指の総合工作機械メーカーへと着々と地固めが進んでいる。
発端は、21年の三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール、滋賀県栗東市)の買収だった。歯車加工機や門型5面加工機を手がける同社を傘下に置くことで、当初は電動駆動装置「イーアクスル」の製造用工作機械の内製化を目的としていたが、早期に高収益企業に変えられたことで事業拡大に舵を切った。
その後、22年にMCのほか、大型や立型のコンピューター数値制御(CNC)旋盤などを手がけるOKK(現ニデックオーケーケー)、23年に横中ぐり盤世界シェア首位の伊PAMA、CNC旋盤メーカーのTAKISAWAを相次いで買収。わずか3年間で製品群は一気に広がった。
技術面でもグループ間シナジーの創出を加速。これまでに、3社の得意とする技術・ノウハウを組み合わせることで、高精度歯車加工が可能な複合加工機や、歯車加工ができる複合CNC旋盤などを開発している。
(2024/12/27 17:00)
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