- トップ
- 科学技術・大学ニュース
- 記事詳細
[ 科学技術・大学 ]
(2016/9/26 05:00)
今年のノーベル賞シーズンが来週に迫ってきた。2015年は生理学医学賞に北里大学の大村智特別栄誉教授、物理学賞に東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長の受賞に沸いた日本。16年も日本人受賞者が誕生し、3年連続受賞となるか。有力候補者とその研究業績を紹介する。自然科学3賞は10月3日に生理学医学賞、4日に物理学賞、5日に化学賞がそれぞれ発表される。(斉藤陽一、藤木信穂、小寺貴之)
【生理学医学賞/たんぱく質2研究に注目】
生理学医学賞は、体内の異物に対抗する免疫のブレーキ役たんぱく質の「PD―1」を見つけた京都大学の本庶佑(たすく)客員教授が有力候補。このたんぱく質の働きを抑えると、免疫細胞によるがんの攻撃が再活性化することを発見し、小野薬品工業の抗がん剤「オプジーボ」開発につながった。16年の京都賞に選定され、21日には米トムソン・ロイターからノーベル賞有力候補に選ばれるなど、追い風が吹く。
細胞内の小胞体がたんぱく質の異常を検出・修復する仕組みを解明した京都大学の森和俊教授も有力。細胞が自身のたんぱく質を分解・再利用するオートファジー研究の第一人者である東京工業大学の大隅良典栄誉教授、脳活動を計測する「機能的磁気共鳴断層撮影装置」の基本原理を発見した東北福祉大学の小川誠二特任教授も有力視される。
海外勢では全遺伝情報(ゲノム)を自在に変えられるゲノム編集技術の一種「クリスパー・キャス9(ナイン)」が注目だ。
【物理学賞/「重力波」観測が本命視】
15年の物理学賞は、基礎研究において日本が伝統的に強い素粒子物理学分野が受賞した。過去の受賞傾向から言えば、16年は産業に比較的近い応用分野に焦点が当たることになる。ただ今年は例外的に、アインシュタインが100年前に存在を予言した「重力波」の観測の成果が本命視されている。2月に米国の研究グループが観測に成功しており、新しい天文学の始まりと期待されている。
応用分野に光が当たるとすれば、日本の得意分野では新材料の開発や、磁性を使った新原理の発見などが有力テーマに挙がる。東京工業大学の細野秀雄教授は「鉄が超電導になる」ことを初めて発見。超電導の常識を覆したブレークスルーだ。
磁石の性質を持つ半導体を開発し、「半導体スピントロニクス」の基礎を築いた東北大学の大野英男教授も注目の研究者。次世代の省エネルギー素子の実現が期待される。
東京大学の十倉好紀教授は、磁性や誘電性など複数の性質を併せ持つ「マルチフェロイック物質」を発見。現在、メモリーへの応用研究を進めている。
【化学賞/イノベーション志向CNT有力】
化学賞は02年受賞の田中耕一氏など、日本企業などでの研究が評価されてきた。ノーベル賞自体もイノベーション志向が強まっているとされる。産業界での基礎研究が実用化され、社会を大きく変えた例は少なくない。
飯島澄男名城大学終身教授のカーボンナノチューブ(CNT)発見はNEC時代の成果だ。CNTは91年に発見され、物性がわかると応用研究が世界に広がった。先にノーベル賞を受賞しているフラーレンとグラフェンと並び、長年有力候補に挙げられてきた。
(2016/9/26 05:00)