ゲノムAIで「がん」に挑む 富士通

(2024/7/22 12:00)

個別医療・創薬にも活用

生成人工知能(AI)がもたらす変革の波は日に日に大きくなっている。一方で、機械学習や深層学習などの既存のAI領域で培った多くの知的資産も引き続き重要。富士通はこれらを組み合わせ、専門領域に適用することで、単独のAIだけでは到達できない新たな価値を生み出すことを目指している。その先陣に立つのは、全遺伝情報(ゲノム)とAIを掛け合わせた「ゲノムAI」だ。

ゲノムAIで富士通が注力するのは「がん」。具体的には「病原性推定」と「マルチモーダルゲノム」を通じて、がんの診断や治療への貢献を目指して研究を進めている。

病原性推定は患者のゲノムからがんの原因となる遺伝子の変異を高精度に測定し、予測した根拠について分かりやすく説明する仕組み。この研究は東京大学医科学研究所との共同チームで取り組んでいて、複数の遺伝子が融合することで生じる複雑な変異といった、世界初の研究成果が学術誌に掲載されるなど有用性が認められている。

  • ナレッジグラフをベースに、ゲノム情報とひも付けられている病理画像

予測はテキストや画像、数値などの異なる形式のデータを抽象化して体系的に統合した「ナレッジ(知識)グラフ」と、深層学習を組み合わせて実現する。ナレッジグラフは富士通が力を注ぐ「説明可能なAI(XAI)」の中核でもあり、富士通の富士秀コンピューティング研究所シニアリサーチマネージャーは「我々はゲノムでは7年程度の実績を持っている」と語る。生成AIの登場で学習データが増え、精度も一段と向上している。

マルチモーダルゲノムでは従来、別々に扱っていたゲノム情報と病理画像データをそれぞれナレッジグラフに変換し、関連データや知識をつなぎ合わせて大規模な統合データベース(DB)を構築する。複数のナレッジグラフをつなぎ合わせる技術はスペインのバルセロナスーパーコンピューティングセンター(BSC)と共同研究している。

この技術を肺がんの種類分けなどに適用したところ、世界最高精度の92・1%を達成した。具体的には、がん患者から得た細胞の病理画像と、ゲノム情報をナレッジグラフとしてひも付けることで高い精度を実現している。画像上では「注目すべき部分をマークで示すなど、医師が納得する形で見せる」(富士シニアリサーチマネージャー)といった工夫もある。

ゲノムAIは個別化医療や創薬などへの貢献も含め、未来の医療を大きく前進させることが期待される。

(2024/7/22 12:00)

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