(2024/10/18 14:30)
ヒト用目指し知見応用
日本は世界有数のペット大国だ。イヌ・ネコ飼育数は1590万頭を超え、15歳未満の子どもの数より多い。だが、ペット医療の現場では輸血体制は整っておらず、救命を諦めるしかないことも。期待されているのが中央大学の小松晃之教授らが開発したイヌ・ネコ用の人工血液だ。小松教授は人間の人工血液実現を目指す中で、「派生技術も社会に還元したい」と知見を応用。世界で拡大するペット医療に革命をもたらす。
小松教授は人工血液研究を30年にわたり続けている。血液中で最も重要な酸素を運ぶ赤血球は代替物が開発できておらず、期限切れ血液から取り出したヘモグロビンを材料に人工赤血球(人工酸素運搬体)を作っている。小松教授は血漿中に多く含まれるアルブミンに着目し、ヘモグロビンの周囲にアルブミンを結合させた人工酸素運搬体「ヘモアクト」開発に成功。血液型がなく、長期保存も可能で輸血液の代替物として注目されている。
ペット用への応用を目指したのは、ヘモアクトを動物に使えないかと獣医師に相談されたことがきっかけだ。動物医療では人間のような献血輸血システムはなく、輸血が必要な際は近隣のボランティア犬や供血犬からの血液に頼るしかない。
小松教授らは、ウシなどのヘモグロビンにイヌ、ネコのアルブミンを結合させたヘモアクトを完成。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で対流や沈降がない微小重力環境で結晶化し、立体構造を解明するなど実用化を目指した。だが、この製剤は製造コストが高く、早期の普及は難しかった。
獣医師らのニーズをあらためて探ると、動物用アルブミン製剤(血漿分画製剤)も求められていると分かった。アルブミンは血液の浸透圧や循環血液量を維持する働きを持ち、人間の場合は献血液から分離したアルブミン製剤が臨床で広く使われている。そこで、入手容易なブタのアルブミン(PSA)を用い、この表面に生体適合性の高いポリオキサゾリン(POx)を結合させた「POx―PSA」を開発。イヌ・ネコ用人工血漿として安全に使えることを示した。
低アルブミン血症などの疾患治療のほか、手術時の出血による急激な血圧低下や輸血を待てない場合に循環血液量を増やして救命できる。実際に、血液を50%失ったラットも、POx―PSA投与により蘇生できた。イヌ、ネコにPSAをそのまま投与すると抗体ができるが、POxに包めば免疫反応が起こらない。また、生体適合性高分子としてよく使われるポリエチレングリコール(PEG)に比べ、POxの優位性を確認。「POxはペプチドに似た構造で、免疫系に認識されにくいと考えられる」(小松教授)。血中滞留性が高い、凍結乾燥も可能で保存性が高いなど利点は多い。合成も混合だけの簡単な操作で特殊な装置は不要だ。
POx―PSAの実用化で救える多くのイヌやネコたちがいる。小松教授は「ヒト用人工血液の完成が最終ゴールだが、得られた成果を別の形で実用化していくことも大事だ」と力を込める。
(2024/10/18 14:30)
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