[ オピニオン ]
(2017/7/5 05:00)
東京都内の雑居ビルに事務所を構える知人から、移転の苦労話を聞かされた。長年、入居していたビルの取り壊しが決まり、引っ越し先を探さなければならない。
なるべく近くで、広さや賃料も同水準の部屋に移りたい。それが予想外に難しい。現在入居するビルは、どのフロアもだいたいレイアウトが同じ。つまり似たようなことを考えて物件を探している人が、ビルの階数と同じだけ存在した。
一つビルの中で近所づきあいをしてきた経営者仲間が、家主に立ち退きを告げられた途端“ライバル”になった。適当な物件がタッチの差で先に押さえられた。大規模な再開発の一環で、近くのビルも次々と解体が決まる。希望の物件に巡り合うのは、ますます難しくなった。
やっとのことで徒歩5分ほど離れた一室を確保した。少し狭くなるが、それは仕方ない。ただ大通りを挟んで電話局のエリアが違ってしまい、電話番号を変えなければならないのが残念だったという。
中小ビルが密集する古いビジネス街で、大きなビルへの建て替えはよくあること。そんな華やかな再開発の陰で、零細企業が苦労を強いられているかもしれない。本社移転の案内状の向こうに、ため息が聞こえる気がした。
(2017/7/5 05:00)